お知らせ

心房細動(しんぼうさいどう)

新型コロナウイルス感染症の第5波がようやく沈静化し、一息ついているところかと思います。ただ、年末から年明けにかけて第6波が来ることも予想されており、またインフルエンザの流行シーズンでもあることから、引き続きワクチンも含めた感染症対策(手洗い、マスク、換気等)をしっかりと励行していただきたいと思います。また、新型コロナ感染症を心配されて健康診断を先送りにされている方もいらっしゃるかもしれませんが、こういう時期だからこそ、年に1回は健康診断を受け、身体の状態を確認することをお勧めします。

今回は、不整脈の一つである心房細動についてお話ししたいと思います。

心臓は上下左右の4つの部屋に分かれていますが、上の二つ部屋を心房、下の二つ部屋を心室と呼んでいます。心房は血液を蓄え、心室は血液を身体に送り出すポンプの働きをしています。心房細動は、文字通り心房が細かく小刻みに動く為に血液がよどみがちになり、その影響で心室も不規則に動く(収縮する)ことになります。日本には、心房細動の患者さんが約200万人いるとも言われ、60人に1人程いる計算となり、決して珍しい病気ではありません。心房細動は、動悸、息切れ、めまい、胸の不快感等の症状もありますが、3-4割の方では無症状のこともあり、早期発見、早期治療には年1回の健康診断での診察(聴診)や心電図が大切になります。

心房細動で怖いのは、心房内で血液がよどむことによって稀に血栓(血の塊)が出来る事です。その血栓が血液に乗って脳の血管に詰まれば、大きな脳梗塞を起こします。その結果、半数の患者さんが寝たきりや歩行困難で要介護状態になったり、死亡してしまうとも言われています。皆様もよくご存知の野球界の著名人やサッカーの元日本代表監督なども、心房細動が原因で脳梗塞を患われました。

心房細動による脳梗塞を減らすためには、血栓防止の為に抗凝固剤を使用することが大切ですが、この治療を行うか決める際に使う指標として、CHADS2スコア(脳梗塞発症リスク評価)が有名です。このスコアは①心不全、②高血圧、③年齢(75歳以上)、④糖尿病、⑤脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作の5つの因子のうち、①から④の因子のある場合はそれぞれ1点、⑤は2点とし、合計6点中2点以上があれば脳梗塞になる可能性が高い(5年間で約20%、5人に1人程が発症)とされ、積極的に抗凝固剤の治療をすることが勧められています。抗凝固剤は、以前はワーファリンという薬しかありませんでしたが、2011年から2014年以降、日本では4種類の新しい薬が使えるようになっています。抗凝固剤は、血栓防止の一方で出血のリスクも少なからずある為、血圧のコントロールは重要です。

心房細動そのものについても、上記のリスクを減らすことは大切で、血圧、血糖、コレステロール等を良好にコントロールすることは言うまでもありません。血栓防止以外の治療としては、脈の乱れを整える抗不整脈薬や脈拍を調整するβ遮断薬があり、その方の状態に応じて投薬される場合もあります。また、根本治療としては、心臓の電気信号の乱れの原因の回路を遮断するカテーテル治療(アブレーション)があります。

繰り返しになりますが、年1回は健康診断を受け、動悸、息切れ、胸の不快感等の症状が気になる場合は、かかりつけ医に相談し、心電図や24時間ホルター心電図、心臓超音波検査等を施行してもらい、心房細動の早期発見につなげてください。心房細動が見つかり症状が強い場合やリスクが高い場合には、必要に応じて専門医に紹介してもらうことも大切です。

令和3年12月発行 救急便り129号より
松田医院 松田 環 先生