お知らせ

ある日、突然、「眼が見えない!」~光か、闇か?~

 眼科を受診する急性の症状にも様々なものがあります。症状や種類も様々ですが、なかでも「急に眼が見えなくなった。」と聞けば眼科医であっても身構えてしまうのは私だけではないと思います。
今回はこの場をお借りして、この「急に見えない」症状を診るときの私なりの視点をご説明させていただきたいと思います。当たり前ですが眼科には毎日「眼が見えなくなった。」方達が受診されます。
その多くは近視や遠視・乱視などの屈折性のもの(眼鏡やコンタクトレンズ等で矯正できえるもの)や白内障など加齢によるもの、或いは緑内障・糖尿病網膜症・黄斑変性症などの比較的緩徐に進行する疾患で緊急性がないものがほとんどです。訴えの中に「急に」という表現がついた場合でも、たまたま片眼で見てみたら「見えなかった」「見づらかった」など正確にはその時に「気づいた」というものが多く含まれています。しかし、中には網膜動脈閉塞症などのように真に「急に」で一刻を争うものもあります。これを見極めるのが特に重要ですが、非常に難しいことでもあります。先ずどんな疾患でもそうですが、「見えない」症状を見極めるには問診が重要だと思います。ここでは「急に」の場合を特定し「どのように」という点で「見えない」の中身を探ります。「ぼやけて見えない」のか「光って見えない」のか「黒く見えない」のか、そして「部分的」か「全体的」か?

「ぼやけて見えない」場合は写真に例えると「ピンぼけ」の状態で、部分的にしても全体的にしても緊急性はそれほど高くないと思います。急性緑内障や角膜疾患・黄斑変性症などが考えられます。
「光って見えない」には光視症といって、フラッシュのような瞬間的な場合と数分以上続く継続的な場合があります。瞬間的な場合の原因はほぼ眼球内にあると思います。眼球内部では60歳前後に後部硝子体剥離という構造上の変化が起こります。これは眼球内につまっている硝子体が収縮し、密着していた網膜から離れる現象で網膜剥離とは異なりますが、このときに網膜が破れると網膜剥離を起こします。数分以上継続する場合には閃輝暗点の可能性が高く、そのほとんどが片頭痛やストレスが原因です。しかし、閃輝暗点が短期間に繰り返し起こり頻度の多い場合には脳梗塞や脳出血の場合があり注意を要します。
「黒く見えない」場合は部分的・全体的、一時的・継続的にかかわらず比較的重篤な疾患に関連していることが多いように思います。数分程度の一過性で全体が真っ暗になったときは一過性黒内障の可能性が高く脳血管の循環障害、継続的な場合は網膜剥離や網膜出血または視神経炎や多発硬化症などの炎症性疾患や脳梗塞・脳出血・脳腫瘍が考えられます。

さらに的を絞るためには実際に他覚的な眼部所見が必要ですが、以下自覚別に大まかに「光」と「闇」とに分けてみました。
「光」・・・[緊急性低~中]後部硝子体剥離(網膜剥離の前兆の可能性あり)、閃輝暗点
「闇」・・・[緊急性中~高]広範な眼底出血、網膜剥離、一過性黒内障、視神経炎、脳神経障害

令和元年6月発行  救急便り第119号より
多摩なのはな眼科クリニック 黒石川 誠 先生