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麻しん(はしか)の理解と予防

 この原稿を書いている時点(2019年2月下旬)で麻疹が関西地方を中心に流行しているという報道がされています。我が国は2015年にWHOから「麻しん排除国」に認定されましたが、それ以後も麻しん発症のニュースがたびたび報道されています。全世界ではフィリピン、ウクライナなど現在進行形で麻疹が猛威を振るっています。麻疹に対する免疫をしっかりつけておかないと、海外から入る麻疹患者により日本国内で流行してしまうこととなります。
麻疹ウイルスの感染力は極めて強く、飛沫感染、接触感染のみならず空気感染します。感染から約10日の潜伏期間を経て、発熱、くしゃみ、鼻汁など風邪症状、目の充血、目やにで発症します。またこの頃、口腔内頬粘膜に白い斑点(コプリック斑)が出現するのも特徴的です。熱が一旦下がりかけ、再び高熱が出てきた時に赤い発疹が耳の後ろから顔面にかけて出始め、全身に広がります。赤い発疹は徐々に褐色の色素沈着が残るのが特徴です。
麻疹にかかると一時的に免疫が抑制された状態になり、他の細菌やウイルスによる肺炎や脳炎など重症な合併症を発症し、時に死亡に至ることもあります。また、ごく稀ですが、罹患から数年後に亜急性硬化性全脳炎という進行性に知能障害、運動障害をきたす極めて重篤な中枢神経疾患を合併することがあります。
このように麻疹は重症な感染症ですが、空気感染するため、うがい、手洗い、マスク着用では予防できません。唯一の予防法がワクチンを接種することです。現在は麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を接種します。1歳児と小学校入学前1年間にそれぞれ1回ずつ、計2回接種を行います。大人の方でも麻しんワクチンを2回接種していない方、免疫があるかどうか不安な方は、MRワクチンを通算2回接種していただきたいものです。麻しん抗体価を測定して(自費となります)免疫状態を確認した上でワクチン接種を検討するという方法もあります。妊娠されている女性は接種できず、接種後2カ月程度の避妊が必要です。なお、麻疹患者と接触後、緊急(72時間以内)に麻疹ワクチンの接種を受けることで発症を予防できる可能性があります。
 最近、乳児検診の際、お母さんから、「麻しんや風しんはかかった方がしっかり免疫がつくと聞いているのでワクチンは必要なのですか?」と聞かれ、まだそのような考え方があるのかとびっくりしたことがあります。麻しんのみならず、風しん、水痘、流行性耳下腺炎、B型肝炎などワクチンで防ぐことができる感染症には致死的あるいは後遺症の残る合併症がありますので、ご自分(あるいはご自分のお子様)のためだけでなく、他人、特に免疫の弱い方に感染を広げないためにも是非ワクチンで予防していただきたいと思います。そして、疑わしい症状があれば、感染拡大を防ぐため事前に医療機関に連絡の上受診してください。 

平成31年3月発行 救急便り第118号より   武井小児科 武井 章人